【PICK UP】 HIGHLIFE★HEAVEN vol.23

2017.06.03.Sat

西アフリカ発のポピュラー・ミュージック、ハイライフを中心にアフリカン・ミュージックについてお伝えする本連載の23回目!

先日、カセットコンロスのワダマンボさんが監修しているコンピレーションCDがリリースされた。

1
V.A – KINGSTON BOUNCE – ROOTS OF SKA

このコンピは、ジャマイカにおけるスカの誕生、発展に大きな影響を与えたであろう米国産のリズム&ブルースや、ブルースなど、ワダさんならではの”ルーツ・オブ・スカ”をコンパイルした内容となっていて、はっきり言ってとっても素晴らしい。

自分のように、この手の音楽の門外漢で、掘りたいんだけどどこから手を出せばいいのか迷ってしまう人間にとっては、とてもありがたい教科書。なおかつ、エゴ・ラッピンの森雅樹さんとの対談形式で進行する曲解説がとにかく面白くて、それを読みながらCDを聴いてると、10代、20代の頃にわずかな情報だけでいろいろと掘り下げることで玉を乱していたあの頃のトキメキとか、ワクワクした感覚が甦ってくるようだった。

じゃあハイライフのルーツはよ?と言うと、真っ先に出てくるのがパームワイン・ミュージック。しかし、ハイライフは当時最も洗練されたクロスオーヴァー・ミュージックでもあったので、それだけに飽き足らず、カリプソ、ジャズ、ブルース、R&B、スウィング、チャチャチャにメレンゲ、ルンバにマンボと、実に多彩。多様性の宝庫。まさに雑種天国。ブレンド・イズ・ビューティフルである。

そんな変幻自在の1950年代〜60年代のハイライフ楽団たちの中でもとりわけ異彩を放ったと思われるのがこのナムバーだ。


・MELODY ACES – ASAW FOFOR

“!?”

なんだコレはっ!?

である。

この“不穏”なイントロで幕を開ける西アフリカ産のツイスト・ナムバーはイグナス・デ・スーザ率いるメロディ・エイセス。彼らの全14曲収録の現在確認できる唯一のアルバム『FAVOURITE MELODIES』にこの曲は収録されている。

メロディ・エイセスのどの楽曲と比べても、いや同時期のギターバンド・スタイルも含めた全楽団の楽曲と比べても、抜群にシンプルな音数なのに踊れる。もはや扇情的とも言えるギターフレーズとイグナスのエロすぎるトランペット、そして刻むリズム、心地よく体を揺らしていたところにブッこまれるブレイクでは、思わず手を叩き、ストンプせずにはいられないのである。

ハイライフ史上でも燦然と輝くこのキラー・ナムバーは、アフロやラテンなどをダンス・ミュージックの解釈で鳴らしていた、いわゆるトロピカル・ミュージック界隈のDJの間では、長らくナゾのキラー・チューンだったらしい。それもそうだろう。ソフリートのミックスを流していて、こんなダーティーなツイストが流れ出したら、誰だってビックリ仰天してしまうに違いない。

ちなみに、昨年レディオ・マルティコのフレッドが来日した際、クンビアやブーガルー、サルサなんかに混ぜてこの曲をプレイしていたのが印象的だった。

さて、このメロディ・エイセス。リーダーのイグナス・デ・スーザは、ガーナの隣の隣の国であるベナンのコトヌー出身だそうで、同国初のプロ楽団であるアルファ・ジャズでサックスを吹いていたら、ナイジェリア出身のトランペッターであるジール・オニイナに、

『キミ、サクソフォンやのうて、トランペット吹いとったほうがええやん』

と勧められ、トランペットに転向したそうな。その後、ヴィンテージ・ハイライフの名楽団であるスパイク・アニャコルのリズム・エイセスに参加し、自らの初のバンドとなるシャンブロース・バンドを結成したそうだ。このシャンブロース・バンドもリズム・エイセスも、単独の音源こそ見当たらないが、それぞれヴィンテージ・ハイライフをコンパイルしたオムンバスで何曲か聞くことができる。

その後、当時英国はDECCAにあったウェスト・アフリカ・シリーズでの録音の為にメロディ・エイセスを結成する。その後は、ハイライフ・ファンのみならずアフロ・ミュージック・ファンにはお馴染みのブラック・サンチアゴスへ。彼は『West African Genius=西アフリカの天才』と言う異名があったらしいが、なるほど納得である。まあ要するに最重要人物の一人ってワケだ。

2
MELODY ACES – FAVOURITE MELODIES
(DECCA WEST AFRICAN SERIES / WAP.22 / 1963年)

メロディ・エイセスが1963年にDECCAからリリースしたLP『FAVOURITE MELODIES』は全14曲収録で、1曲たりとも捨て曲のない大名盤。ハイライフはもちろん、先の『ASAW FOFOR』のようなツイストや、チャチャ、メレンゲなど多彩な音楽性で魅了してくれる。

あまりに捨て曲がないもんだから、何なら全曲YouTubeにあげて掲載してしまいところだけど、さすがにそれは暴挙すぎるので、このLPの中から個人的に大好きな曲、”フェイバリット・メロディーズ”を何曲か載せてみよう。


・MELODY ACES – ODAMBRE

とてもメロウで美しいミッドテンポのハイライフ・ナムバー。コンガやジャンベの音色がとても心地良い。ガーナの言語(恐らくファンテ方言か?)とピジン・イングリッシュの入り混じったボーカルも素晴らしく、シャンペンとかホワイトホース、ブランデーと言ったワードが聞き取れるが、祝杯でもあげる曲なんだろうか。ボーカリストは恐らく当時の売れっ子ボーカリストであるジョス・アイキンスで、サビ部分『ペペペ〜♩』と思わず口ずさませるが、彼らがハイライフ楽団としても一流だったことを教えてくれている。


・MELODY ACES – BRA BEGYE MANI

さて舌の根も乾かぬうちに極上のチャチャチャをお送りしているが、この『FAVOURITE MELODIES』の裏ジャケには、当時のレコードとしては珍しくメンバーの写真が載っている。2人だけだけどね。1人は言わずもがなでリーダーでありトランペッターのイグナスだが、もう1人はギタリストのビル・ヘッセと言う人。

3

彼の情報は、ネットを叩いてみてもほとんど皆無だ。どこかの国の同姓同名のヘッセさんのフェイスブックが出てくるぐらい。謎多き人物ではあるが、写真を載せられるぐらいなんだから、サウンド・プロダクションにおいて重要な役回りの人だったに違いない。
そう思って、このLPを頭から聴き直してみると、B面の4曲目に収録されていたこのチャチャチャにとにかく引っかかった。おいおい待てよ、とんでもねーギターを弾いてるぞ!と。そして、とにかくこのバンドの演奏力の高さに改めて驚嘆してしまったのだった。ちなみにこの曲の“BRA”とか”BEGYE MANI”は、ガーナの曲ではよく使われる単語なのだが、どんな意味があるんだろうか。


・MELODY ACES – LYSIE SI ABOTAR

こちらは『FAVOURITE MELODIES』の翌年1964年にリリースされた45のB面を飾る大名曲のメレンゲ・ナムバー。
何かを予感させるイントロ、そこからのブレイクを挟んでからのダンス・パートへと展開していく構成は極上で、強烈極まりないダンス・ナムバー。中間あたりのトロピカルなギターソロは、音色を聴く限りやはりビル・ヘッセによるものだろう。そしてそこに絡みつくかのようなイグナス・デ・スーザのトランペットは圧巻。駆け抜けるように、汗水漬くに踊り倒すように過ぎ去る2分50秒は、ハイライフにおけるダンスホール・クラシックと呼んで差し支えないんじゃないだろうか。

先ほども述べたように、イグナス・デ・スーザはこの後、ブラック・サンチアゴスを結成する。彼はよっぽどツイストが好きだったのか、はたまた当時の最新型だったのかはわからないが、このバンドでもツイストをやっている。

エマニュエル・K・アサレをフィーチャーしたこのナムバーだが、まるでサム・クックの『WONDERFUL WORLD』を早回しにしたような、キャッチーな名曲。好きだったのか、それとも当時のロンドンではこう言う曲をやらなければ誰も踊らなかったのか、真相は闇の中。てことで、今回はこの曲を聴いてお別れです。


・BLACK SANTIAGOS – PRETTY LITTLE ANGEL

2017.06.03.Sat

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