【PICK UP】HIGHLIFE★HEAVEN vol.28

2017.08.16.Wed

西アフリカ発のポピュラー・ミュージック、ハイライフを中心にアフリカン・ミュージックについてお伝えする本連載の28回目!

日々、筆者の様に『ハイライフガー!』とか『西アフリカガー!』なんて言ってばかりいると、時々ハイライフに対して否定的な反応を示す人に出くわすことがある。

それもまあ仕方ない話で、とにかく呼ばれればヒップホップの現場だろうが、ハウスの現場だろうが、ガチガチのサルサの現場だろうと構わずにノコノコと出掛けて行き、さながらドンキホーテの様にハイライフをブン回して帰って来るんだから、ネガティヴな反応があるのも当然だと思う。セレクターとしての力不足も否めないし。

とりわけ、アフリカ音楽に素養がある人でも、しっかりとしたドラムのビートがないせいか、わりとオールディーズのハイライフはダメな人もいて、そんな否定的な意見の中でも印象的だったのが『正直ラテンはちょっと…』と言うものだった。

なるほど。ラテンだと思うのか。

そう思った筆者は、家に帰るなりすぐに自身のTumblrのサブタイトルに”This is Highlife not Latin”などと付けたものである。意固地になっていたんだと思う。

この一節は、ハードコア・パンクファンにはお馴染みの大名盤『This is Boston not LA』の引用ではあるけれど、もちろんハイライフにはラテンの要素も色濃く反映されている。それでも、これは純粋な意味でのラテンじゃない!ハイライフなんだ!ハイライフなんだよ!と、声高に訴えたい気持ちでいっぱいだったのだった。誰も理解してくれない。そんな自己憐憫でいっぱいだった。

だが、そんな筆者のチンケなモヤモヤを吹っ飛ばしてくれた楽団がいた。
それはジェリー・ハンセン率いるランブラーズ・ダンス・バンドだった。

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前々回の筆者のブラック・ビーツの時にも書いたけれど(http://pls.tokyo/news/highlife-heaven-vol25)、
ジェリー・ハンセンは1960年代の初期頃にブラック・ビーツを抜けて自らの楽団であるランブラーズ・ダンス・バンドを結成する。

E.T.メンサー&ヒズ・テンポス・バンドやブラック・ビーツ、ブロードウェイやスターゲイザーズなどの楽団と比べると、結成自体は少し遅かったのかもしれない。のちに、ランブラーズ・インターナショナルと名乗るようになった彼らは、ウーフル・ダンス・バンドやパット・トーマス、そしてエボ・テイラー、アフリカン・ブラザーズ・インターナショナルらと並んで、1970年代から後もガーナを代表するバンドとして活躍していくこととなる。

今回はそんなランブラーズについての曲紹介をメインとさせていただく所存です。
ランブラーズは大好きな楽団の1つであり、多作な楽団でもあるので、音源多数となるけれど、最後までどうぞお付合いくださいませ。


・RAMBLERS DANCE BAND – OBURONI WOEWU

さてさて記念すべき1曲目は、ガーナ・オールディーズのダンスバンド・ハイライフの中で燦然と輝くキラーナムバーである。
まるで掛け声のように響き渡るイントロの管楽器と、それに呼応するベースラインとクラーベ。うねりを増していくグルーヴ抜群の黒いベースに負けじと吹き鳴らされるホーン隊。そして、アジテートするようにがなり歌うヴォーカルとそこにかぶさるレスポンス。初めて聴いた時はその全てが衝撃的だった。

この曲で鳴らされるクラーベはいわゆる3:2のクラーベとなっていて、感覚はアフロ・フィーリングだと思うが、従来のハイライフのクラーベと少し違ってキューバのソンのクラーベに近い。それもまたこの曲のダンサブルにしている要素の一つだと思う。


・RAMBLERS DANCE BAND – MITEE MOMO

続いては先ほどのOBURONIと共に1963年に英国DECCAからリリースされた『THE FABULOUS RAMBLERS』に収録されたナムバー。
ギミックを多用したイントロがなんともキャッチーだが、ドラムとコンガやジャンベ、こちらは従来のハチロクのクラーベ(だと思われる)が雪崩のようにリズムを刻み続ける佳曲。

この1963年頃のランブラーズの作品は、比較的オーソドックスな内容だと言っても良い。中でも上記の2曲のような異質な曲もあるけれど、ブラック・ビーツと同様にギミックが多いのと、アフリカのビートを取り入れることを強く意識していることがわかるぐらいで、全体を通してまだまだその後に魅せる多様性をあまり垣間見せることはない。

ちなみに、ランブラーズが人気があった理由の一つに言語が挙げられるようで、確かに彼らの作品のクレジットを確認してみると、主流となっていたトゥイ語(アサンテ方言)の他にファンテ語やガ語、それからピジン英語までを操っていたようだ。

以前に日本にいるガーナ人のミュージシャンに当時のガーナの音楽事情を聞いてみたところ、だいたいレコードを録音する時は幅広いオーディエンスの市場を獲得する為に第一言語であるトゥイ語(アサンテ方言)で唄わせてたって話を聞いたことがあったけれど、ランブラーズはそんなのお構いなしで録音していたのだろうか。だとした異端である。まあ、ジェリーさんてば結構なコワモテだしな。。

そんなランブラーズだが、続く1967年の『DANCE WITH THE RAMBLERS』(DECCA / 1967年)では遂にその変態性を開花させる。


・RAMBLERS DANCE BAND – WAISE ABRABO

チャランガやパチャンガと言ったキューバン・ミュージックに影響されたかのような性急なリズムとそれまでのダンスバンド・ハイライフではあまり聴けないヴォーカルのメロディをなぞったり細かいフレーズを入れ込むギターにトリップミュージックのように鳴らされるベースギター。その全てが渾然一体となって襲いかかってくる異色中の異色曲。だがしかし、恐ろしくかっこいいのだ。

この1967年作は、恐らくそれまで以上に様々な楽器の流通が円滑となり、録音技術もグレードアップしたと推測されるが、その影響からかこれまでの作品のようなメロウで甘美なダンスバンド・スタイルのハイライフナムバーでも、リズム隊に厚みが出るなど色濃い変化を感じることができるのだ。


・RAMBLERS DANCE BAND – OFIE MOSEA

打って変わって作中屈指の美しさを誇るこのナムバーも同様で、クラーベこそハチロクのクラーベのようだが、ドラムのスタイルやパーカッションのグルーヴはその後のラテン・ミュージックへの傾倒をにじませる。ギターのソロも実にトロピカルだし、何よりも唄モノとして悶絶モノのメロディを歌い上げるヴォーカルをしっかりとフィーチャーした作りになっている。


・RAMBLERS DANCE BAND – KNOCK ON WOOD

まだこちらはダンス・バンド名義時代の楽曲。
そう。こちらは何を隠そう、ソウルファンにはお馴染みSTAXはメンフィス・ソウルの大御所であるエディ・フロイドの『KNOCK ON WOOD』のハイライフ・カバーなのだ。

この曲が収録されている『THE HIT SOUND OF THE RAMBLERS』には、他にもソウル・ミュージックに影響された楽曲が何曲が収録されているけれど、これらを本人達が望んでカバーしたのか、それともレーベルの意向で録音したのかは不明だ。

だが、1971年。そんなモヤモヤを彼ら自身が払拭してみせる。

彼らはザ・ランブラーズ・インターナショナルへと名義を変更し、『DOIN’ OUR OWN THINGS』と言うタイトルのアルバムをDECCAからリリースする。

“俺たちは俺たちのやりたいようにやるのさ”

と、名付けられたこのアルバムは、その決意通り縦横無尽に様々なジャンルのナムバーを収録していて、遂に彼らの才能を世界は認めざるを得なかった。
そんな最高の作品の中から3曲ほど。


・THE RAMBLERS INTERNATIONAL – VETA PA’ LA LUNA (TITO PUENTE)

シャレオツ度200パーセントのラテン・ミュージック。それ以上の説明は野暮になってしまいそうなどキャッチーな楽曲。
それもそのはず、こちらは「ラテンの王様」と呼ばれたティト・プエンテのカバーなのだから。

まだまだ驚くことなかれ。
お次のナムバーは英国のスウィンギン・シックスティーズのモッズ・グループ、ザ・ペドラーズの名曲のカバー。


・THE RAMBLERS INTERNATIONAL – NINE MILES HIGH (THE PEDDLERS)

他にもセリア・クルースやヒュー・マセケラなどもカバーしていて、本当にやりたい放題なのだ。
そして、そんな作品の中からラストを飾るのはスペインのオブスキュアなワールド・ミュージックを再発することで有名なVAMPI SOUL(HIGHLIFE TIMEと言う入門編のようなコンピをリリースしてたりもする)のコンピレーションにも収録されていた奇跡のハイライフとチャランガをハイブリッドに融合させたキラーナムバー『MUNTIE』で締めよう。


・THE RAMBLERS INTERNATIONAL – MUNTIE (HIGHLIFE CHARANGA)

この曲の凄まじい破壊力はいつ聴いても衝撃的だ。
どこかで聴いたことのあるような管楽器のメロディと反復するリズムは麻薬のように体を揺らし始め、中盤のシンガロングパートを通り過ぎ、乱れ打ちされるパーカッションとドラムのソロパートで多幸感に溢れたクライマックスを迎える。ハイライフの要素を一聴しただけでは判別することはできないけれど、洗練されたアフリカ音楽の魅力が凝縮された傑作だと思う。

と、長かったけれども、ここまで聴いてもらえばわかってもらえるだろうか。
ランブラーズは紛れも無いハイライフ楽団であり、彼らが鳴らせばモダン・ソウルも、モッズも、ラテンもサルサも全てハイライフとなるのだ。だから、ラテンだとかそうで無いとか、そう言ったことは、そんなに大きな問題じゃ無い。

なぜなら”彼らは彼らの思い通りにやるだけ”なのだから。

と言うことで、最後は彼らが鳴らした愛すべきガーナに捧げた(であろう)カリプソナムバーでお別れ。
余談だけど、ガーナ人ミュージシャンの二人組であるロビーとビリーのロビーは、この曲が流れた瞬間にぶち上がって合唱していたのだった。もっとも、彼はだいたいの曲でぶち上がるのだけど。


・RAMBLERS DANCE BAND – WORK AND HAPPINESS

【DJ Schedule】

・SHOCHANG

◆8月16日(水)
『Wednesday Chillin’』
@町田ThisOne
http://thisone.theshop.jp/

◆8月20日(日)
『HIGHLIFE & PALMWINE NIGHT』
@吉祥寺BAOBAB
http://wk-baobab.com/

Soundcloud:https://soundcloud.com/shochang-highlife-heaven
Mixcloud: https://www.mixcloud.com/shochanghighlifeheaven/

2017.08.16.Wed

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