【PICK UP】 HIGHLIFE★HEAVEN vol.20

2017.04.16.Sun

西アフリカ発のポピュラー・ミュージック、ハイライフを中心にアフリカン・ミュージックについてお伝えする本連載の20回目!

ディス・イズ・ホンモノ!と、自らを“ホンモノ”と名乗るのは、吉祥寺バオバブを中心に活動するガーナ人のギターとジャンベのユニット、ロビー&ビリーだ。

彼らは、ハイライフが華開いた頃にティーンネイジャーだったであろう両親に育てられ、よりモダンなテイストを獲得したハイライフやスークースを聴いて育ち、今は吉祥寺や阿佐ヶ谷、高円寺などの中央線沿線を中心に、ハイライフのルーツであるパームワイン・ミュージックを演奏している。

クワメ・アサレがガーナに持ち込んだリベリア沿岸のパームワイン・ミュージックを、E.K.ニアメがより現代的なサウンドとして演奏し、ギターバンド・スタイルのハイライフは誕生した。1953年ぐらいのことらしい。その後、クワベナ・キング・オニイナが、ジャズのコードやリズムなどを加えてアレンジし発展させたギターバンド・ハイライフは、E.T.メンサーやスターゲイザーズ、ブロードウェイと言った楽団が彩ったダンスバンド・ハイライフとは趣は違ったが、確かな人気を博し、後年のバンドたちにも大きな影響をもたらした。

優雅なダンスバンド・スタイルのハイライフに比べて、とっつきにくいとされがちなギターバンド・ハイライフだが、これから何回かに分けて、その魅力についていつも通り思い入れ過多に考察していきたいと思う。そして、少しでもギターバンド・ハイライフの魅力に気づく人がいてくれたなら嬉しい。

と言うことで、記念すべき1回目は、少し前の投稿にて120%個人的な解釈で挙げた『新・3大ガーナにおけるギターバンド・ハイライフ楽団』、ロイヤル・ブラザーズ・バンド、ハイ・クラス・ダイヤモンズ、アコンピズ・ギター・バンドのうち、ロイヤル・ブラザーズ・バンドについてあれこれ綴ってみたいと思う。

ところが、とにかくロイヤル・ブラザーズ・バンドは情報が少ない。貴重なハイライフの資料本であるネイト・プラージマンの『HIGHLIFE SATURDAY NIGHT』にも、フローラン・マゾレニの『GHANA HIGHLIFE MUSIC』にもほとんど情報は書いてないし名前すら出てこない。もちろんネットで名前を叩いてみても出てくるのはDiscogsやebayなどの過去の出品情報ばかり。あまり発掘が進んでないのかもしれない。

1950年代あたりのE.K.ニアメ、クワベナ・キング・オニイナの時代から、現在ではポピュラーな存在のドクター・ケー・グヤーシとノーブル・キングスや、カカイクのギターバンド、それからボブ・アクアボアのギターバンドなどの1970年代にかけて一斉を風靡したギターバンド・スタイルの楽団らの間で、彼らロイヤル・ブラザーズのようなギターバンドが、オブスキュアな存在として埋もれたままなのだとしたならば、とても悲しいことではないだろうか。

とはいえ情報が無い以上、手元にあるレコードのラベルでできる限り確認するしかない。だが、当時のレコードにはメンバーのクレジットがどこにも無い。唯一、時々7インチシングルにリーダーの名前と、運が良ければボーカリストの名前や作曲者の名前と思われるものを確認することができるぐらいだ。

早速で彼らの音源で確認してみると、1962年頃のシングルに記載されているリーダーの名前はクウェク・ブオ。それが1964年のシングルではサミー・デイビス・ニモに変わっている。1966年のシングルでもサミーの名前が記載されているので、この時期のリーダーはサミーで間違いなさそうだ。このシングルにはその他に、ボーカリストの名前まで書いてあって貴重な情報をくれている。ちなみにサミーはボーカリストだったようだ。彼の他にオフォリとコジョ・コネドと言った名前も確認することができる。

当時の他のハイライフ楽団と同様に、彼らもメンバーの入れ替えもあったのだろう。現状でわかる限り、1966年のシングルを最後に彼らの音源を聴くことはできない。解散してしまったのだろうか。となると、結成年はわからないのでなんとも言えないが、音源の最初のリリース年から推察する限り、恐ろしく短命なバンドだったのかもしれない。いのち短し恋せよ乙女。ハイライフの歴史を辿る様々な文献や資料の中で、彼らの名前が登場することがないのはその短命さゆえかもしれない。

そんなロイヤル・ブラザーズ・バンドだが、英国DECCAのウェスト・アフリカン・シリーズから1枚の10インチ・レコードと何枚かの7インチシングルのリリースが今のところ確認されている。

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ROYAL BROTHERS BAND – THE SINGING GUITAR
(DECCA WEST AFRICAN SERIES / WAL.1027 / 1963年)

まずはこのDECCAの10インチから。このレコードは何よりもそのアルバム・タイトルに心奪われてならない。『THE SINGING GUITAR』とは、誰がつけたか知らないが、言い得て妙ってやつである。そしてそれはこのアルバムの内容を的確に形容していると思う。

ざっと収録曲のクレジットを眺めると、サブ・クレジットに”HIGHLIFE”の文字が少なく、”CHA CHA”が多いことに驚く。次点が”HIGHLIFE”、”MERINGUE”と”RUMBA”が1曲ずつ。どれもこれも粒ぞろいの名曲ばかりだが、前半屈指のフェイバリット曲である『OBAA STELLA』から聴いてみて欲しい。


・ROYAL BROTHERS BAND – OBAA STELLA

ギターバンド・ハイライフを抜群のオリジナリティで進化させたクワベナ・オニイナの作品の中では、カリプソやらチャチャチャと言ったサブ表記は当てにならん!と言うことで知られてるけど、時代が進んだロイヤル・ブラザーズでは幾分か当てになるようになったかもしれない。もちろんオーセンティックなチャチャチャ・フリークからしたら異議申し立てはあるかもしれないけど、この曲はこの曲でかっこいいんだからそれで良いと思う。

欧米の洋楽や、邦楽などに耳が慣れていると、思わず耳を疑うような音色の突飛なフィンガーピックのギターサウンドとともに、

“オバァァ ステェーラァァァ…”

と言う、なんともメロウでキャッチーな歌声から始まるこのナムバー、リズムはチャチャチャの二拍子のように聴こえるが、どこか泥臭く性急。それでも丸みを帯びたベースの音が心地よく響く。そしてなんと言ってもキモは、中盤から後半にかけて、序盤に登場したトロピカルそのもののようなギターで、2曲目にして早くも彼らの真骨頂が炸裂。ラストは野太い声でシンガロングしながらフェードアウトしてゆく。

この衝撃を伴うチャチャチャから、3曲目のメレンゲ、4曲目のギターバンド・ハイライフを1曲ずつ挟み、ここからが個人的なハイライトで、まずはチャチャチャの2連発が続いた後、作中屈指のBPMで繰り出されるアップテンポなギターバンド・ハイライフへ。

そのチャチャチャのうち、1曲は個人的なハイライフ・ナムバー史上ではまぎれもない名曲であり、3指に入るダンス・ナムバーの『OKUKUSEKU』。

・ROYAL BROTHERS BAND – OKUKUSEKU

ガーナにあるとされるジンに似た酒(きっと安酒にちがいないが飲んでみたい)の名前が付けられたこの曲、ブレイクはチャチャチャぽいが、不安定なテンポはやはり早め。筆者がギタリストならば是が非でもコピーしてみたい激烈キャッチーなギターのイントロと踊るために構成されたかのような曲展開に、初めて聴いた時は『なんてことだ!これが50年近く前のアフリカで鳴らされていたのか?』と、強い衝撃を受けたものだった。チャチャチャのようなリズム・パートから、『マンボ!』の掛け声と共になだれ込むダンス・パートは何度聴いてもたまらない。

そしてキラーなロイヤル・ブラザーズ流のチャチャチャ2連発の後に繰り出されるのが後の70年代から80年代に登場する高速ハイライフのバンドたちへ先鞭をつけるかのようなアップテンポのハイライフ・ナムバー。

・ROYAL BROTHERS BAND – MEYARE MEREWU

一度でいいから弾いてるところを生で見てみたくなる早弾きで幕を開けるこの曲は、のっけからツンのめるようなクラベスを始めとするパーカッション部隊の忙しないリズムが特徴的で、恐らく初めて聴いた人にとってはとっつきにくい以外の何物でもないだろうが、聴き続けるとそのメロディアスさがクセになる塩辛いボーカルに絡め取られていると、文字通り”歌う”かのように弾き倒されるギターの音色が嵐のように襲ってきて、何が何だかわからないうちに曲が終わる。そんなナムバーである。恐るべし。

ダンスバンド・スタイルのハイライフ楽団たちがジャズやカリプソなどに影響を受け、それらを取り入れたハイライフを多数残したのに対し、時代の影響もあったのか、1960年代のギターバンド・ハイライフの楽団はチャチャチャの他にメレンゲも多数録音してる。そしてそれらのどれもがフロア映えするキラー・ナムバーだったりするのだ。

・ROYAL BROTHERS BAND – BEGYE MENI

これは1962年リリースの彼らのシングルに収録されたメレンゲ・ナムバー。前述の10インチが1963年リリースだからこの曲はアルバムには収録されていない。爪弾かれるギター(相変わらずどんな弾き方をしているのか想像ができない)、テンポを変えると同時に合流するクラベスとベース。そして、踊り出す為の合図みたいなブレイクの後に、爆発するように歌い出すボーカルと走り出すリズムは、いわゆるウェスト・インディーズ産のメレンゲ、メラングに比べると、泥臭くて攻撃的ですらある。しかし、その“いなたさ”がたまらなくカッコいいのである。

・ROYAL BROTHERS BAND – ODO YE WU

ロイヤル・ブラザーズの回、ラストを飾るのは、どの現場で回しても、必ず1人か2人は反応してくれるロイヤル・ブラザーズ流のキラー・メレンゲ。イントロにおけるソロのクラベスとそこの混ざるパーカッションのリズムは全編を通して鳴り響き、そこに加わるハンドクラップは聴く人の耳から手へと伝わり、コードの概念もリフと言った言葉も、チューニングもギターの奏法すらも、
『そんなのただの記号だろ』とでも言うかのようなギターの音で、気づいてみれば体を揺らして手を叩いているのである。曲中ずっとリズムが反復してるので、とても中毒性の高い曲であるにも関わらず、ああ、気持ちいいってなったあたりでスパッと終わる。

さて、こんなにも音源付きでギターバンド・ハイライフについてツラツラと述べている奇特なウェブ・コラムも世界広しと言えど、なかなかないだろう。ヒマ人ね、とか言わないでね。

と言うことで、ロイヤル・ブラザーズ・バンドの魅力に少しでも気づいてもらえただろうか。例え1度でダメでも2度3度聴いてみるとを強くお勧めしたい。聴けば聴くほど、たくさんの魅力に気づくことのできるのが、ギターバンド・ハイライフなのだから。

続く。

2017.04.16.Sun

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